成城脳神経クリニック
片頭痛と閃輝暗点のしくみ
なぜ頭が痛くなり、なぜ光のギザギザが見えるのか
「片頭痛はストレスのせい」「血管が広がって痛むだけ」——長いあいだ、そんなふうに説明されてきました。しかし研究が進んだ結果、片頭痛は脳そのものの働き方に関わる病気であることがわかってきました。ここでは、片頭痛の発作がどうして起こるのか、そして前兆としてあらわれる閃輝暗点(せんきあんてん)がなぜ見えるのかを、できるだけやさしく解説します。
第1部片頭痛はなぜ起こるのか
出発点は「敏感な脳」
片頭痛を持つ方の脳は、生まれつき刺激に対して反応しやすい性質を持っています。火災報知器にたとえるなら、感度がとても高く設定された報知器のようなものです。
普通なら問題にならない程度の変化——寝不足、寝すぎ、空腹、ストレス、ストレスからの解放、月経周期、天候や気圧の変化、まぶしい光、強いにおい——こうしたささいなきっかけで、脳が「これは大変だ」と警報を鳴らしてしまいます。
これは体質であり、性格の問題でも、気の持ちようでもありません。
発作は4つの段階をたどります
- ① 予兆期頭痛の数時間〜2日前
頭痛が始まる前から、実は発作はもう始まっています。脳の奥にある視床下部という、食欲・睡眠・自律神経をつかさどる司令塔が活動を始めるためです。
- 生あくびが止まらない
- 妙に眠い、あるいは寝つけない
- 首や肩が重い、こる
- 甘いものが無性に食べたくなる
- なんとなく気分が落ち込む、あるいは逆に高揚する
- ② 前兆期頭痛の直前・5〜60分
閃輝暗点などの視覚症状が出る時期です。片頭痛の方の3〜4人に1人にみられます(詳しくは第2部で説明します)。
- ③ 頭痛期4〜72時間
ズキンズキンと脈打つ痛み。動くと悪化し、光や音、においがつらくなり、吐き気を伴います。
- ④ 回復期頭痛が引いたあと1日ほど
頭痛が去っても、ぐったりした疲労感、頭がぼんやりする感じが残ります。「二日酔いのような感じ」と表現される方もいます。
「首が凝ったから頭痛になった」と感じる方は多いのですが、順序は逆で、首のこりは頭痛の前触れの症状であることがよくあります。
痛みの主役は「三叉神経」と「CGRP」
顔や頭の感覚を脳に伝える大きな神経を三叉神経といいます。この神経の枝は、脳を包む膜(硬膜)とその血管に細かく張りめぐらされています。脳が興奮すると、この三叉神経の末端が刺激され、CGRP(シージーアールピー)という物質が放出されます。
つまりCGRPが放出されると、血管のまわりでボヤ(小さな火事)が起こり、その火がさらに神経を刺激するという悪循環が生まれます。血管の拡張は「原因」というより、この一連の反応の「結果のひとつ」だと考えられています。
痛みが「大きく」なるしくみ
痛みの信号は、脳幹から視床を経て大脳へと伝わります。ところが発作が長引くと、この通り道の神経自体が過敏になってしまいます。これを中枢性感作といいます。こうなると、
- 髪をとかす、櫛が当たるだけで痛い
- メガネやマスクのゴムが痛い
- シャワーの水が当たると痛い
といった、本来なら痛くないはずの刺激まで痛みとして感じられるようになります(アロディニア)。さらに、私たちの脳には本来痛みを抑えるブレーキの仕組み(下行性疼痛抑制系)が備わっていますが、片頭痛発作中はこのブレーキも効きにくくなっていると考えられています。
発作の早いうちに薬を飲むことが大切とされるのは、この感作が完成してしまう前に火を消したいからです。「もう少し様子を見てから」と我慢すると、同じ薬でも効きにくくなります。
吐き気や光・音のつらさはなぜ?
吐き気・嘔吐
三叉神経の興奮が、脳幹にある吐き気の中枢に波及するためです。同時に胃腸の動きも止まるため、飲んだ薬が吸収されにくくなります。
光がまぶしい(光過敏)
目から入った光の信号が、痛みを中継する視床で「痛みの信号」と合流してしまうためです。網膜から視床に直接つながる特別な経路の関与もわかっています。
音・においがつらい
同様に、脳全体の感覚処理が過敏になっているためです。暗く静かな部屋で横になりたくなるのは、脳が自分を守ろうとしている自然な反応です。
治療との関係
- トリプタン系薬剤:三叉神経の末端に働き、CGRPの放出そのものを止めます。
- 抗CGRP抗体・CGRP受容体拮抗薬:CGRPを直接ブロックする、新しいタイプの薬です。予防薬として月1回などの注射で使われるものもあります。
「痛みを我慢して耐える」時代から、「しくみに沿って抑える」時代に変わってきています。
第2部閃輝暗点とは何か
どんな症状か
閃輝暗点は、片頭痛の前兆として最もよくみられる視覚症状です。典型的には、視野の中心近くに小さなキラキラした点があらわれ、それが少しずつ大きくなりながら、ギザギザした光の帯となって視野の外側へ広がっていきます。ギザギザの形が城壁の輪郭に似ていることから、要塞スペクトルとも呼ばれます。そして、その光る帯の内側は見えない、あるいはぼやけた領域(暗点)になります。多くの場合、5〜60分ほど(20〜30分程度が典型的)で自然に消え、その後に頭痛が始まります。
発症から数分
15〜20分後
- ギザギザに光る帯=波の先頭(神経が強く興奮している部分)
- 見えにくい部分(暗点)=波の通過後(機能が一時停止した部分)
視野の中心近くから始まったギザギザの光の帯が、外側へゆっくり広がっていきます。光る帯のすぐ内側が見えにくくなるのが特徴です。
正体は「脳を広がるゆっくりした波」
閃輝暗点は、目の異常ではありません。後頭葉にある視覚野(ものを見る脳の領域)で起こる現象です。視覚野の神経細胞に、皮質拡延性抑制(ひしつかくえんせいよくせい)と呼ばれる特殊な電気的変化の波が発生します。この波は、
- まず神経細胞を一気に強く興奮させ
- 通り過ぎたあとは、しばらく機能を停止させる
という二段構えの性質を持ち、1分間に約3ミリメートルという、とてもゆっくりした速さで視覚野の表面を広がっていきます。田んぼの稲穂が風で倒れていく波、あるいは静かな池に石を投げたときの波紋を思い浮かべてください。あの波が、脳の表面をゆっくり進んでいくイメージです。
波の先頭(強い興奮) → その部分の視覚野が「見えていないのに光が見えた」と錯覚する → キラキラ、ギザギザの光
波の後ろ(機能停止) → その部分だけ視覚情報が処理できない → 見えない部分(暗点)
光の帯と暗点が並んで一緒に移動していくのは、ひとつの波の先頭と後方を見ているからなのです。症状がゆっくり広がるのも、波の進む速さがゆっくりだからです。
「両目で見える」ことが重要な手がかりです
閃輝暗点は、片方の目を閉じても、もう片方の目を閉じても、同じ側の視野に同じように見えます。これは、症状が目ではなく脳で起きている証拠です。
逆に、片方の目だけを覆ったときに症状が消える場合は、目や目に向かう血管の問題(一過性黒内障、網膜の疾患など)の可能性があり、眼科的な検査が必要になります。診察の際、私たちが「片目ずつ隠すとどうでしたか」とお尋ねするのは、このためです。
さらに詳しく
なぜギザギザ(ジグザグ)に見えるのですか?
視覚野は、視野の情報を規則正しく地図のように並べて処理しています。この「脳内の地図」の構造と、神経細胞が線の方向を検出する仕組みが組み合わさることで、波が通過する境目が、私たちには直線ではなくジグザグの模様として知覚されると考えられています。城壁のような形に見えることから「要塞スペクトル」と呼ばれます。
前兆のあと、必ず頭痛が来るのですか?
いいえ、必ずしもそうではありません。皮質拡延性抑制の波は三叉神経を刺激して頭痛の引き金になると考えられていますが、前兆だけで頭痛が来ない方、加齢とともに頭痛が減り閃輝暗点だけが残る方も少なくありません。「頭痛がないから片頭痛ではない」とは限らないのです。
血管が詰まりかけているということですか?
いいえ。前兆のあいだ、視覚野の血流はやや低下しますが、これは血管が詰まった結果ではなく、神経の活動が止まったことに伴う二次的な変化です。脳梗塞とは異なるメカニズムです。ただし、症状だけで両者を区別するのが難しい場合もあるため、下記に当てはまるときはご相談ください。
発作が来そうなとき、どうすればよいですか?
可能であれば、暗く静かな場所で横になり、光や音の刺激を減らしてください。処方されている急性期治療薬がある場合は、痛みが本格化する前の早い段階で服用することが重要です。ただし前兆の段階でトリプタンを飲むべきかは薬剤や病型により考え方が異なりますので、服用のタイミングは主治医にご確認ください。
市販の痛み止めを続けても大丈夫ですか?
使用日数が増えている場合は注意が必要です。痛み止めの使いすぎ自体が頭痛を増やしてしまう状態(薬剤の使用過多による頭痛)が知られており、月に10日以上の使用が続いているときは治療の組み立て方を見直す必要があります。頭痛ダイアリーで服薬日数を記録し、早めにご相談ください。
受診こんなときはご相談ください
- はじめての閃輝暗点、または今までと様子が違う
- 視覚症状が1時間以上続く、あるいは消えない
- 毎回まったく同じ側にだけ症状が出る
- 片方の目だけの症状(もう片方の目を閉じると消える)
- 手足の力が入らない、しびれる、言葉が出にくいなどを伴う
- 50歳を過ぎてから初めて症状が出た
- 突然、これまで経験したことのない激しい頭痛が起きた
- 頭痛の頻度や強さが、明らかに増えてきている
- 市販の痛み止めを月に10日以上使っている
突然の激しい頭痛、意識がもうろうとする、手足の麻痺やろれつが回らないといった症状を伴う場合は、緊急の対応が必要なことがあります。ためらわず救急要請または救急外来の受診をご検討ください。
片頭痛も閃輝暗点も、「気のせい」でも「我慢すべきもの」でもありません。
脳という精密な器官で起きている、はっきりとしたメカニズムのある現象です。
そのメカニズムがわかってきたからこそ、発作を止める薬も、発作そのものを起こりにくくする予防薬も、この10年で大きく進歩しました。つらい症状を「体質だから」とあきらめてしまう前に、一度ご相談ください。
※ 本ページは一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個々の診断や治療方針に代わるものではありません。症状についてのご心配は、必ず医療機関にご相談ください。

